首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)

埼玉県春日部市(旧庄和町)に巨大な地下空間がある。 ドボクマニアの間では有名なところで、本や雑誌、テレビにも取上げられることが多い場所である。 私も一度は見学したいと思っていたが、見学は平日に限られる上に予約が必要で機会がなかった。
ところが、年に1度、地元で行なわれる「彩龍の川まつり」の際に予約なしでも見学できる機会があるという。 今年(2010年)は11月13日(土曜日)に当たり、これは好機とばかりに行ってみることにした。

取材日=2010年11月13日


調圧水槽

解説は抜きにして、まずはこの空間。写真を見てもらいたい。

よく「神殿」とか「秘密基地」に例えられるが、柱が立ち並ぶ非日常的な光景、巨大さ、しかもそれが地下にあるといった 現実が想像力を超えてしまって、ただ圧倒されるばかりである。

この地下空間の名称は「調圧水槽」と呼ばれ、首都圏外郭放水路と呼ばれる大規模な治水施設の一部である。江戸川に 面している庄和排水機場の、地下にある。調圧水槽という耳慣れない言葉を理解するためには、まず、全体の仕組みである 首都圏外郭放水路から理解する必要がある。
首都圏外郭放水路は、中川、倉松川、大落古利根川といった河川容量が小さい(すなわち氾濫しやすい)中小河川の氾濫水を 容量の大きな江戸川に流す(放水)することを目的とした地下水路である。 概要図を見ると、南北に走る中川、倉松川、大落古利根川を 横切って東西に水路が走り、江戸川まで通じているのがわかる。水のバイパスルートである。地中の水路トンネルは直径10m、全長6.3km ある。氾濫した水は地下水路を通って庄和排水機場まで送り込まれ、排水機場のポンプで汲み出されて江戸川に放流される。 ポンプは、1秒間に200tもの水を汲み出す能力がある。

調圧水槽は、この大掛かりな放水の仕組みの中での、大掛かりな安全装置としての役割を担っている。
ゲリラ豪雨のように短時間に大量の雨が降ると、河川からあふれた水が地下の水路トンネルに一気に流れ込み、その勢いで 水路トンネル内の水圧が急激に上昇する。ウォーターハンマーと呼ばれる現象で、水路施設を破壊したり、排水ポンプにダメージを与えたり する。排水ポンプが壊れてしまうと、最悪の場合排水できずに溜まった水が逆流してあふれてしまい、放水路ともども流域が水没してしまう ことになりかねない。こうした事態を防ぐために、放水路を通って送り込まれる水はいったん調圧水槽に溜められ、勢いを弱めてから排水 ポンプを通じて江戸川に排水されるようになっている。
ウォーターハンマー現象は、逆方向にも起こりえる。 先に説明した放水路の仕組みの中で、もし万一排水機場のポンプが緊急停止してしまったら。それまで1秒間に200tもの勢いで江戸川の 排水口に向かっていた水の流れが、いきなりせき止められてしまう。その際に水が逆流し、急激な水圧上昇となって、衝撃波が放水路の 水路トンネルを駆け抜ける。流入口から水を一気にあふれさせて流域の被害を拡大させることになる。 排水すべき水が逆流して流域を被害を及ぼしてしまうと、何のための放水路かわからない。氾濫水の逆流だけはなんとしても起こしては ならない。それを食い止めるのも調圧水槽の役割である。

首都圏外郭放水路の地下水路で起こりえるウォーターハンマー現象を緩和し、水圧を調整するための水槽、 すなわち調圧水槽がこの巨大な地下空間である。
その大きさ、高さ25m、幅78m、奥行き(長さ)177mある。

首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)
首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)
首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)
首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)
首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)
首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)

コンクリート柱

調圧水槽の地下空間で、目に付くのは、林立する巨大なコンクリートの柱である。
高さ18m、周囲18m、1本当たりの重さは500tにも達する。こんな柱が59本ある。柱には、 この地下空間を支えるという役割以外に、この水槽自体が地下水の浮力で浮き上がらないようにする 重石の役目もある。

柱を見上げてみると、この大きさ。
うねうねした膨らみがついていて芋虫の表面みたく見える。ちょっと気持ち悪いかも。 コンクリートを流し込むときの型枠に、強度を持たせるための凹凸がつけられているのがそのまま柱に残ったものだと 思われる。

首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)

首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)

首都圏外郭放水路調圧水槽(庄和排水機場)

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