メイソン・ディクソン線と12マイルの円弧

MDP Corner (USGS stone #1 of Mason-Dixon Line Marker Stones)

P-M

D-P

M-M


Arc Corner

12マイルの円弧が、北緯39度43分のメイソン・ディクソン線の延長部分(接円線)とぶつかるところ。この点から円弧が「始まる。」


1889年にメイソン・ディクソン線の北緯39度43分の線分を東に延長する形で接円線(Tangent Line)が設定されるまでは、デラウェア州とペンシルヴァニア州との境界線の12マイルの円弧が北緯39度43分よりも南側に入り込み、ペンシルヴァニア州領がデラウェアとメリーランドの境界に楔形(wedge)に割り込んでいた。



デラウェア州ニューキャッスルにあるかつての裁判所だった建物。中央の白いドームが12マイルの円弧の中心点。ただし一度焼け落ちていて、現在のものは再建したものである。

12マイルの円弧の由来

デラウェア湾−デラウェア川の河口を厄す場所に位置するニューキャッスルは、この地にオランダが植民を開始した時から中心地としての役割を果たしてきた。
イギリスがオランダをうち破ってニューヨーク、ニュージャージー、デラウェアまでの支配権を確立した後、デラウェアは対岸のニュージャージーと合わせてヨーク公領となる。ヨーク公はちょうどデラウェア湾の両岸を得たことになり、デラウェア3郡はデラウェア湾の交通権を担保する戦略上重要な土地と見なされるようになる。
この戦略眼は1681年にイギリス国王チャールズ2世がウイリアム・ペンに現在のペンシルヴァニア州の所領を与えるに及んでいよいよ高まり、なんとでもしてデラウェアを確保しておきたいヨーク公と、フィラデルフィアを河港として発展させたいペンとの間で境界線問題が起きる。その際に両者の間で決められたのが、デラウェアの主邑のニューキャッスルを中心に半径12マイルの円弧を描いて、境界線とするというものであった。
これが現在のデラウェア州とペンシルヴァニア州との境界の「12マイルの円弧」の由来である、その円弧の中心点は厳密にはニューキャッスルの裁判所の屋上のドーム(キューポラ)であったと言う。

ヨーク公とウイリアム・ペンのデラウェア3郡をめぐる確執は、結局、翌1682年、デラウェア3郡もウイリアム・ペンに割譲されるという結末を迎える。これによって、ペンはデラウェア湾の交通権を確立することができ、河港としてのフィラデルフィアの発展につながっていく。

と、今度は、デラウェア3郡も含めたペンシルヴァニア植民地とボルチモア公の領有するメリーランド植民地との間で、境界線問題が起こり、その解決がメイソンとディクソンの測量によるメイソン・ディクソン線の劃定である。メイソン・ディクソン線というと北緯39度43分の線分が有名であるが、同時にデルマーヴァ半島を縦に分割する線分もメイソンとディクソンの測量による。
デラウェア州の地図を見ると、デラウェア湾岸が掻き切られたようになっているのがよくわかる。

ところでデラウェア3郡であるが、独自の地域としてペンシルヴァニアへの統合を拒み、ペンの領有下にありながらも独自の裁判所と議会が主邑であるニューキャッスルに置かれて自治を保った。
1776年、デラウェア3郡はいち早く合衆国憲法を批准し、建国13州の中でも一番始めにアメリカ合衆国に加盟することになるが、それには単にイギリスから独立するという意味だけではなくて、ペンシルヴァニアから独立して一人前の「州」として自立したいという意向が強く反映されていたのである。

メリーランドとペンシルヴァニアという、ともに力のある領主が領有していた強大な植民地に挟まれながらも、自治を守ってきたという強い自負心がデラウェアにはある。また、アメリカ最初の州"The First State"というのも州の誇りになっている。
こうした自由、自治、独立のイメージとは反対に、けれども、デラウェア州の風土としてはとても保守的である。南北戦争以前は奴隷制を採用していたし(ペンシルヴァニア州は自由州)、1970年代までムチ打ちの刑罰が残っていたくらいである。
ニューキャッスルの裁判所の建物は現在博物館になっていて、デラウェア州の歴史について係の人の説明を聞きながら学べるようになっているが、こうしたデラウェア州の両側面をバランス良く解説してくれる。

凡例

  • 青線:メイソン・ディクソン線
    (メイソンとディクソンが実測して画定した線分)
  • 赤線:半島横断線
    (メイソンとディクソンがメリーランドとペンシルヴァニア(当時はデラウェアを含む)との境界を画定する以前から定まっていたが、メイソンとディクソンも測量して確認している)
  • 緑色:接円線
    (約1マイルしかない。ウェッジ地区を解消するために1889年に制定された。メイソン・ディクソン線の39度43分の線分を東に延長する形になっている)
  • 黄色:12マイルの円弧
    (ニューキャッスルの裁判所のドームを中心とする)

参考


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