[Lenticular Truss Bridges (Text in English)]

レンズトラス橋(レンティキュラー・トラス橋)

上弦と下弦の波打つような連続が美しい2連のレンズトラス橋。眼鏡のようでもあり、一対のトンボの羽根のようでもある。(ニュージャージー州ネシャニック・ステイションにて)

レンズトラス橋という珍しい種類の橋がある。トラス橋の一種だが、上向きの弧を描く鋼材と下向きの弧を描く鋼材とが組合わさり、真横から見ると凸レンズの形をしていることからその名がある。英語ではa lenticular trussと言って、日本語でもそのままレンティキュラートラス橋(意味はレンズ状のトラス橋)と呼ぶこともある。2スパンの橋では眼鏡のように見える。魚の形に似ているので「魚形橋」と言うこともある(英語では「魚の腹 a fish belly truss」と言う)。より科学的に「パラボラ型トラス parabolic truss」や「楕円形トラス elliptical truss」ということもある。盛んに架橋された19世紀アメリカでは、「カボチャの種 pampkin seed truss」という言い方もあったという。こうした様々な言い方があるのも、その奇抜な形が人々の印象に残ったためである。

レンズトラス橋とはこうしたユーモラスな形であり、橋梁構造の教科書でもトラス橋の一種として紹介されているかいないかという程の珍しい構造の橋である。そんな橋が19世紀終わりのアメリカで流行し、アメリカ東部の田舎にはいくつも残っている。
レンズトラス橋は19世紀の中頃にヨーロッパでさかんに架けられ、アメリカに導入されると1878年にWilliam O.Douglasが特許を取り、彼が役員となったコネチカット州のベルリン鉄製橋梁会社 Berlin Iron Bridge Companyが独占的に架橋した。架橋数は400件とも1000件とも言われて幅がある上に、同社が建設した別の種類のトラス橋も含まれていると思われ、レンズトラス橋単独での正確な数字はわかっていない。会社のあったコネチカット州を中心に、ニューイングランド地方や、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルヴァニア、オハイオという東北部の諸州で多く建設されたが、なかにはテキサス州での架橋例もある。
コネチカット州のスタンフォード Stamfordのメインストリートに架かるポニー・トラス型のレンズトラス橋は今日でも現存しているが、この橋を架ける際に市の当局が取った見積もりによると
木製の橋$9,000
レンズトラス橋(ベルリン鉄製橋梁会社の提示)$13,000
石造の橋$30,000
という記録が残っていて、比較的安価で永代橋が架けられる工法として広く受け入れられていたことがうかがえる。当時の最新工法だったのである。
レンズトラス橋はベルリン鉄製橋梁会社と運命を共にし、会社が1900年にAmerican Bridge Companyに吸収されてしまったのを機に途絶えてしまった。時折しも戦前の産業独占期に入ろうとしていて、American Bridge Companyも翌1901年には大手鉄鋼メーカーのUS Steelに吸収されてしまった。レンズトラス橋は他の型式のトラス橋と比べて力学的なメリットはほとんどなく、そうなれば、構造が複雑になり余計な鋼材がかかる(トラスとは別に床組を用意しなければならない)レンズトラス橋は廃れてしまう運命にあった。アメリカ全土に50例ほどが現存しているのが確認されているそうだが、これらは全て、ベルリン鉄製橋梁会社が活動した19世紀の終わりのほんの20年ほどの間に建設されたものである。現在では架けられることはない。レンズトラス橋は、架橋例が少ないと言うよりは、既に歴史的な存在になってしまったという意味で珍しい橋なのである。ある時期に栄えてその後ぱったりと途絶えてしまう有り様は恐竜にも似て、レンズトラス橋探しには恐竜の化石を発見するような愉しさがある。
今日アメリカでは、多くのレンズトラス橋がその構造的、歴史的な価値を認められて、なんらかの形で保護の対象になっている。

アメリカでの架橋が途絶えて20年後、1920年代に突如日本でレンズトラス橋の架橋が始まる。日本での架橋例は私が確認しているところではわずか3例だが、その3例ともに1920年代に架けられその後途絶えてしまっている。レンズトラス橋は日本土木史に彗星のように現われ、彗星のように消え去ったのである。
[日本のレンズトラス橋(レンティキュラートラス橋)]

さて、私がレンズトラス橋を紹介するのは、その希少さ、歴史的な価値もさることながら、純粋にその形に惹かれるからである。上に伸びる弧と下に伸びる弧がそれぞれ滑らかな曲線を描き、再び交わり全体でレンズの形を象る様は、眺めて飽かない。また、ベルリン鉄製橋梁会社は細部の装飾にもこだわり、橋門には盾状の銘板を掲げている。構造自体の美しさもさることながら、こうした装飾の美しさもレンズトラス橋の魅力を盛り立てている。

[レンズ型の橋について]


アメリカに残るレンズトラス橋(訪問したもの・州別)

その他のレンズトラス橋(他サイト)


日本での架橋例

日本では1920年代に幾例か架橋されたが、現存するのは北九州市の南河内橋の1例のみである。

  • 南河内橋(北九州市1926年・日本で現存する唯一の架橋例)

  • 桐生橋(群馬県桐生市)

  • 大渡橋(群馬県前橋市1920年)

[日本のレンズトラス橋(レンティキュラートラス橋)]

[TTSの道路探検ホームページに戻る]

お問い合わせ(メール):TTS
スパム対策のため最後にアンダーバー"_"が余計に付いています。
お手数ですが、jpの後の"_"を削除して送信ください。

(C) TTS 1997-2002, All rights reserved

類似表記:レンズ型トラス、レンズ形トラス