火星人襲来!パニックはここから始まったマスコミの影響力や倫理観を論じるとき、あるいはマスコミを通じた社会心理の形成についての研究で必ずといって良いほど引用される逸話に、1938年10月30日にラジオ番組「宇宙戦争(The War of the Worlds)」が全米をパニックに陥れた出来事がある。このラジオ番組は、SF作家のH.G.ウェルズの小説をもとに、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)とマーキュリー・シアターがラジオ・ドラマ化したもので、CBSラジオでハロウィーンの余興として放送されたものだった(放送されたのはハロウィーンの前日だった)。全米で約1200万人がこの放送を聞いていたと言われている。
注:ここでは"The War of the Worlds"を「宇宙戦争」と訳しています。厳密に訳せば、worldsが複数形になっているので「世界間戦争」(私たちの世界と火星人の世界との間の戦争)となります。 | |
プリンストン・ジャンクション駅。 広い駐車場にずらりと並ぶのは通勤者の車で、パーク・アンド・ライドが定着していることが伺える。 | ニュージャージー州グローヴァーズ・ミルは、プリンストン大学で有名なプリンストンからほど近い場所にある。電車で行くのが便利な場所で、ニューヨーク市マンハッタンのペンシルヴァニア・ステーションから、近郊鉄道のニュージャージー・トランジットに乗って1時間半ほど行くとプリンストン・ジャンクションという駅に着く。文字通りプリンストンへの乗換駅で、ここから1駅だけの支線が伸びていて1両の電車がとことこ行ったり来たりするのだが、この駅が最寄り駅になる。 |
あたりは森が残されていてその中に住宅が点在するという、日本でいうと軽井沢や山中湖畔の別荘地みたいな景観のコミュニティである。とは言っても別荘地ではなく、マンハッタンへの通勤圏内であり、周辺にはプリンストン大学を始めとして企業の研究所も多く、そういう所に勤めているナチュラリストなインテリが住んでいそうな場所と考えた方がいいだろう。 | |
火星人騒動の記念碑さて、別荘地のような住宅地の中を30分ほど歩くと沼のほとりに出る。 | |
沼の近くに自動車部品や農機具を扱っているGrovers Mill Co.がある。この裏手の方に、ラジオを聞いた地元住民がパニックのあまり火星人の宇宙船と勘違いして銃で撃った三角錐の給水塔があるらしいのだが、よくわからなかった。
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銃で撃たれた三角給水塔 | |
前回の取材から半年後、再取材にもう一度グローヴァーズ・ミルを訪れてみた。 Grovers Mill Co.の裏手に白い家が見える。個人のお宅だが、この家の裏庭に火星人の宇宙船と勘違いして人々が銃を撃ったという給水塔が残されている。残念ながら訪問時は留守で詳しいことは伺えなかったが、ちょうど木々が冬枯れで葉を落としていたために敷地の外からも拝見することができた。 三角櫓の要領で組み立てたのだろうか、確かに三角錐の形をした変わった給水塔である。 1938年の「宇宙戦争」放送も10月末だったので、同じように木々の枝の間に給水塔が見えたことだろう。日が暮れて暗やみの中で、人々が手に持つランプの明かりにこの給水塔が浮かび上がったとして、果たして異星人の宇宙船と勘違いするものだろうか。人々の恐怖心と群衆心理がいかほどのものだったか(平常では想像もつかないような集団錯乱状態だったこと)がわかる。
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火星人ニューヨークに迫る:プラスキー・スカイウェイ | |
ニュージャージー州ジャージー・シティに通じるプラスキー・スカイウェイ。鋼鉄のトラスを組み上げた橋が延々と続く様子はまさに空中道路=スカイウェイという名にふさわしく、アメリカ工業化の象徴である。1932年に開通したこの橋も、火星人に攻撃されたことになっている。 | |
作者あとがき 2003年2月再取材・三角給水塔を追加、写真を大幅入替え
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