マンハッタン都心横断ルートの確保:直進プログラム

「アメリカは自動車の国だ。自動車がなくてはどこへも行けない」と言っても、ニューヨークのマンハッタンのど真ん中をわざわざ運転してみようという人は少ないだろう。ビルの谷間の碁盤の目になっている街路には車があふれ、ふと車が途切れたと思えば歩行者が赤信号でも平気で横断し、自転車やスケートボード、最近ではスクーターやローラーブレードといった乗り物(?)も車道を走っている(もっとも「自転車は車道」というのが日米を問わず原則であり、最近ニューヨーク市では自転車が歩道を走ると罰則が強化されたので、自転車を邪魔者扱いするのは間違いではあるが)。

もともとマンハッタン内は一方通行規制が多くて、慣れないと思ったところになかなかたどり着けないかったが、さらに最近(2002年10月15日から)、ミッドタウンを対象に実験的な取り組みとして新たな規制が追加された。
それは東西に走る街路(丁目=street)を指定して右左折を禁止してしまおうというものである。マンハッタン島内の街路の内、南北に走る道(番街=avenue)は比較的広いが、東西方向の道の方は2、3車線のところがほとんどで、それも路上駐車があるので実際の所は1車線(一方通行)しか車が走れない。繰り返して言うまでもないことだが、マンハッタンは車だけでなく人もあふれている。交差点で右左折しようとすれば人が渡り終えるまで車は曲がれず、その分交通が停滞することになる。そこでThru Streets Programmeと呼ばれる、直進プログラムが導入されることになったのである。

このページでは、このThru Streetsプログラムが実際にどのように行なわれているのか、現地を調査してみようと思う。

[ニューヨーク市交通局・ミッドタウンの直進限定について(英語)]

イースト・リバーをクイーンズ・ミッドタウン・トンネルで渡って、マンハッタンにはいる。トンネルを抜けると早速マンハッタン内の行き先の表示が出てくる。左のDowntownは地域のことだが、右のCrosstownは文字通り「都心を横断する」ルートという意味である。この右側、37th street(37丁目)がThru Streets 規制の対象路線であり、今回はこの通りを調査してみようと思う。
ちなみに左側の表示に出ている2nd Avenue(2番街)は南行きの一方通行路でダウンタウンに通じる。35th streetは東向きの一方通行で、34th streetは両方向走行できる。
実験的な規制だからか、案内が布でできている。

クイーンズ・ミッドタウン・トンネルから通じる道路でも一見すると裏路地みたいな感じだが、これがマンハッタン内の東西方向の道路の標準的な様子である。
直進プログラムは3番街(北向き一方通行)、パーク・アベニュー(両方向)、6番街(北向き一方通行)が除かれている。繁華街である5番街は規制の対象になっていて、平日昼間はこの通りから直接曲がることは出来ない。

Thru Streets Programmeの看板は、交差点毎と、1ブロックに2枚ずつ、かなり頻繁に掲出されている。

37丁目は2車線交通が確保されている。

西向き一方通行の36th street(36丁目)には"BEST ROUTE TO 2ND AVE"(2番街への最適ルート)という標識が出ている。直進プログラムの目的は、都心横断のために交通の流れを良くしようとするだけでなく、バイパス・ルートとしてドライバーに認知してもらうことによって積極的に交通の流れをコントロールしようとするものでもある。

2003年1月末現在、ミッドタウンでこの直進プログラムの対象となっているのは、60丁目から36丁目までの間の9本の通り(東西方向)である。この規制は、交通の流れの変化によっては今後変更になる可能性があるとのことである。

直進プログラムで興味深いのは、単に交通の流れを良くするだけでなく、最適なルートとして地域を通り抜ける交通を一定の通りに誘導してしまうということである。
ご存じのようにマンハッタン内の街路は東西南北に格子状に造られている。これは、放射・環状道路を組み合わせた街路と違って、中心地を作らず全体としてのっぺりとした均質な都市空間設計を含意している。そのため、自動車交通が盛んになると、放射・環状道路のように通過交通を引受ける太いパイプが存在せず、目的地の異なる車がいっしょになって街路のすみずみにまで入り込むことになる。結果として、町の至る所で渋滞が引き起こされ、通り抜けに要する時間も増えることになる。特に注意しなければならないのが、右左折の先の街路も渋滞していたり歩行者を優先させて曲がるに曲がれず、交差点での車の停滞を先頭に新たな渋滞が引き起こされ、それが後方の交差点まで延びてしまって、格子状の道路が連鎖反応的に渋滞を起こし地域交通全体が麻痺してしまうことである。これをグリッド・ロック(grid lock)と言って、交通管制上絶対に避けなければならないとされている。
今回の実験は、最適ルートを選び出して通過交通「専用」にしてしまうことで、通過交通と地域内交通をできるだけ分離しようというものである。街路の使い方にいわばメリハリを与え、格子状の街路の持つグリッド・ロックの危険性を回避しようとする試みであると言える。


2003年1月取材

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