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青ヶ島に行くまで
青ヶ島に行くというのは、実際に行って戻ってくるのにもいろいろ苦労したのだが、なぜ青ヶ島に行ったのかを人に説明するのもまた面倒なものである。
まず青ヶ島自体の説明から始めなければならない。
青ヶ島は、八丈島から南へ約70km、東京本土からだと365km南の太平洋上に浮かんでいる。
周囲は約9km、面積は5.98平方kmの小さな島である。島の形は、南北3.5kmの水滴型で、水滴の膨らんだところでも東西2.6kmほどである。
伊豆諸島の一部に含まれているものの、古来より八丈島と対になる島、あるいは八丈島の衛星島といった地理的位置にある。
行政的にも八丈島にある八丈支庁の管内にあり、郡制がなかったため、昭和63年までは東京都八丈島青ヶ島村と表記していた。
現在は「八丈島」が取れて、東京都青ヶ島村となっている。島の人口は200人弱しかいない。
青ヶ島一島が青ヶ島村という行政単位になっていて、日本で一番小さな自治体である。
「日本で一番小さな自治体」というだけでも、個人的には既に青ヶ島を訪れる意義はあるのだが、この段階で旅の目的として理解を
示してくれる人はほとんどいない。
青ヶ島へ行くとなると東京本土からの直行便はなく、一旦八丈島へ渡り、そこから船かヘリコプターに乗り換えることになる。とはいえ、船の就航率は4割程度しかなく、島の人々も、島を訪れようとする人も、もっぱらヘリコプターの利用を考える。「ヘリコプターで渡る島」という印象が強い。
ところがこのヘリコプターは朝に1往復あるだけで、定員は9名しかない。いくら人口200人の小さな島とはいえ、八丈島には支庁もあり人の行き来はそれなりにある。9名の定員はすぐに満席になってしまって、予約を取ることが難しい。
八丈島までは羽田空港から170人乗りのジェット飛行機が1日4往復もあり難なく行けるが、そこから先、青ヶ島に渡るところが困難なのである。
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行くことが困難な土地へ、しかもヘリコプターという非日常的な乗り物を使ってたどり着くということ自体、旅の目的になってもおかしくはないのだが、
やはり理解はされない。挙句の果て、そこまで苦労して青ヶ島へ行って何を見てきたのか(してきたのか)と聞かれると、答えようがない。
小さな島だから「観光地」と呼べるようなところはない。となると、もっと個人的な動機で説明するしかない。
私が青ヶ島へ行こうと思い始めたのは、2005年の4月に転職することが決まり、3月末にまとまった休みが取れることがわかった段階でである。
行きにくいところだからこそ休みの取れるせっかくの機会ができた時に行っておこうという気持ちがまずあった。とはいえ、日本国内、まだ行ったことのない土地はたくさんあるし、47都道府県のうち沖縄県にはまだ行ったことがない。行きたいところは山ほどある。
いろいろ行きたい場所があるなかから青ヶ島を選んだ理由は、ふと見た島の空撮写真に釘付けになったからである。
水滴型の島の円く膨らんだところが大きく窪み、その中にプリンをお皿に盛ったような山がある。そして、そのプリンには樹林が縦に縞を描いている。
周囲には屏風のような山並みがそびえている。外輪山を持つ典型的なカルデラ地形である。青ヶ島は火山の島なのである。
集落は北側のわずかに平らになった土地にある。国土地理院の地図を買ってきてみると、集落のある辺りの標高は270m、カルデラの底は90mとなっている。この差の180mだけ、火山が陥没したのだ。
島の周囲は標高が200〜300mの断崖絶壁だ。南の島なのに、海水浴ができるような砂浜がない。
島の周囲が断崖絶壁なので船を着岸できる港も、三宝岩と呼ばれる岩礁を足がかりにコンクリートで固めた三宝港しかない。これとてようやく船が着岸できるところまで整備したのであって、少し前までは沖に船を停めて、荷物を艀(はしけ)に積み替えて荷揚げするという作業が行われてきた。当然、大きな船は着岸できない。八丈島から青ヶ島へ渡ってくる船は黒潮を横切ってくる外洋航路なのに、港に着岸することを考えるとそう大きくもできない。となると割として小さな船で就航させるしかないので、その帰結として、少しの波浪でも欠航してしまうことになる。
先に書いた就航率の低さは、島の地形と密接に関連していたのである。
海からたどり着くのが困難であれば、標高270mの台地上に空から降り立つしかない。「ヘリコプターで渡る島」というイメージが具体的になってくる。
こうして、1枚の写真を元に、さまざまな情報やイメージがつながってくると、もう居ても立っても青ヶ島に行きたくてたまらない気持ちになってくるのだ。
何かを見に行くとか観光しに行くとかではなく、自分の中で思い描いた土地のイメージが抑え難いものになったとき、そのイメージを裏書して、具体的な形にするために、出かけたいと思うのである。
とにかく青ヶ島に行ってくることにした。
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