国東半島の古寺と石仏

富貴寺

実は今日の日程は天気次第のところがあった。もし朝起きて雨だったら、湯布院あたりの 温泉にでも入って一日のんびり過ごすしかないかなと思っていた。 雨だったら、実際熊野磨崖仏の長くて急な石段を傘を差しながら登る ということは難儀だっただろうし、あちらこちらに立ち寄って観光するのも億劫になってしまう。
だがそれ以上に理由があって今回是非とも見たいと思っている富貴寺の壁画が、 雨の場合は拝観中止になってしまうのだ。それで朝、大分のホテルから富貴寺に電話してみた。
「今日見れますか?」「雨が降ると閉めてしまいます」「そちらは晴れていますか?」「曇っています」
危うく禅問答になりかけたが、雨は降っていないようだ。

富貴寺についたのはお昼前。
天候はなんとかもって、無事に阿弥陀堂を見ることができることになった。

富貴の大堂(蕗の大堂)

仁王像に迎えられて山門をくぐる。石段を登ると、透き通ったかえでの緑の中に ぽつんと阿弥陀堂が立っていた。ご本尊のいる大堂である。

大堂の中にはちょうど団体さんがいて、堂内はいっぱいだった。急ぐものでもないので 外で待つことにした。解説のテープが一巡すると、団体さんはぞろぞろと出て行った。

極楽浄土の昼寝

団体さんが出て行った後の誰もいない御堂に入る。 阿弥陀如来とそれを取り巻くように描かれた壁画。堂内に極楽浄土が再現されている。 思わず歓声をあげてしまいそうになる。単に仏とか壁画というモノを見るのではなく、 仏教世界に入り込んでしまったかのようだ。

圧倒されてしばらくただずんでしまう。批評とか感想は思いつかず、すっかり自分自身が 仏の世界に引き込まれてしまっている。

誰も来ない。静かだ。

御仏には足を向けないようにして、横になってみた。

堂内はひんやりとして気持ち良い。風がそよいで、通り抜けていく。これもまた気持ち良い。
目を閉じればそのまま眠ってしまいそうだ。
目を開けると、そこには極楽浄土が広がっている。退色剥落しているものの、堂宇内壁一面に おびただしい仏が描かれている。薄暗がりのなかで、そうした仏たちが少しずつ浮かび上がって見え、 やがて本来はこんなお姿だったのだろうという鮮やかな色彩が目に見えてくる。

阿弥陀如来に見守られながらの昼寝は、しばらく続いた。 お行儀は悪いが、壁画を描いた作者はこういう安らいだ空間と時間を作りたかったに違いない。

いつのまにか家内も横になっていた。

人が来たら出て行こうと思ったが、5分たっても、10分経っても、誰も来なかった。 大堂を出て境内を一瞥して、階段を下っていくと、ようやく観光客とすれ違った。


富貴寺
山門。この山門自体は1978年に再建されたもの

富貴寺
富貴の大堂(蕗の大堂)
この大堂自体が国宝である。本尊の阿弥陀如来坐像と内部の壁画が重要文化財に指定されている

富貴寺
堂内の撮影は禁止されている

[第4日目その2(熊野磨崖仏)に戻る] [第4日目その4(仁王像)に進む]

[戻る]

(C) TTS 2006, All rights reserved