太平洋戦争開戦に伴って日系人が強制収容された収容所のひとつ、マンザナール強制収容所からはシエラネヴァダ山脈の山並みが間近に広がり、収容されていた人々の心の慰めになっていたという。南北に細長いオウエンズ・ヴァレーから見上げる後シエラ・ネヴァダは、信濃大町あたりから眺める後立山連峰のような趣がある。
ところで、シエラ・ネヴァダ山脈にはアメリカ本土(アラスカを除く)で一番高いホイットニー山があることで知られているが、この山がマンザナール強制収容所から見えたかどうかというのが問題になった。よく「アメリカ本土最高峰のホイットニーを含むシエラ・ネヴァダ山脈が見える」という表現はされるのだが、ホイットニー山そのものが見えるかどうかは正確なところわからなかった。
現地を訪れた際に、シアトルから来たというアメリカ人と話をしていて、強制収容所の正面に見える三角形の鋭利な峰がホイットニーだろうとふたりで指差して眺めてみた。この槍ヶ岳のような形の山は戦時中の強制収容所の写真には必ずと言っていいほどよく写し込まれていて、マンザナールのシンボルのような格好になっている。
マンザナールからホイットニー山は本当に見えるのかという指摘を受けて地形を再現して山座の同定を試みてみたところ、このよく目立つ山はウイリアムソン山(Mt. Williamson)で、ホイットニーの方は山嶺にほとんど埋没するようにわずかに先端を突き出していることがわかった。ホイットニー山が見えることには間違いはないが、私が最初勘違いしていたように、ウイリアムソン山との取り違えは多そうである。
ちなみに、ウイリアムソン山の槍に似た鋭角の山容は人の心をとらえるようで、ヨセミテ国立公園の写真で知られているアンセル・アダムズは「マンザナールから見たウイリアムソン山」という有名な写真を撮っている。
このページの地形再現は、USGSの標高並びに経緯度データをカシミール3D Ver6.0 Beta7で図形化しました。利用したのはかなり古いバージョンです。最新版はこちらで入手できます。