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水路と工場街 Raceway and Mills

パターソン博物館の横の道を少し坂を登るように歩いていくと、ビジターセンターがある。大滝とは目と鼻の先まで来ているが、ビジターセンターに立ち寄って地図や資料などをもらう。博物館は展示物中心で、どちらかというと町歩きにはこのビジターセンターでもらえるパンフレット類が有用だ。

現在、大滝を中心にしたかつての工場街(パターソン博物館も含む)はThe Great Falls National Historic Landmark Districtに指定されていて、景観の保全が図られると同時に、見学順路の設定や案内看板の設置などの観光客への配慮もなされている。

ビジターセンターのある三差路を左に折れ、大滝の展望台へ向かうようにしていくと、程なくパッセイク川に出会う。大滝の上流にあたり堰が作られている。ここから水路に水を引き込んでいた。水路は現在では使われていないが、水力発電所を動かす為の水を取り入れるための堰として現役である。

堰のフェンスに"SUM"の文字が残っている。"SUM"とは1791年にアレクサンダー・ハミルトンが中心になって創設した"The Society for Establishing Useful Manufactures"のことで、このソサエティが水路を建設・管理運営した。文字通りの起業家集団である。動力源が水力から電力に移り変わると水力発電所を建設して運営するなど、パターソンの産業振興に大きな役割を果たしてきた。
水路や水力発電所という産業のインフラ整備を、民間の工場主達が自らが「公的な」団体を組織して行なってきたことが興味深い。

SUMは工場主達によるギルド的な性格を持ち、ニュージャージー州からさまざまな特権を獲得していた。ニュージャージー州知事のウィリアム・パターソン(William Paterson=パターソンの地名は彼の名前にちなむ)は1791年に、議会による修正ないし無効化を認めないという条項を含む永代特許状(charter)を発行し、水路や運河の開削・運営権、他者が利用した場合の料金徴収権、広く一般を対象とした宝くじによる資金集め、従業員に対する徴税や平時に於ける兵役の免除などの様々な特権をSUMに認めた。これらの特権は、SUM創設の中心人物のアレクサンダー・ハミルトンが州の財務長官(secretary of the Treasury)を勤めていたことによってその効力が担保されていた。起業家集団のインフラ整備とはいえ、時の政府と深いつながりがあってこそ実現した側面もある。

パターソンの工業化にSUMの果たした役割や、広くインフラ基盤の整備まで手がける起業家精神が評価される一方で、こうしたギルド的特権的な組織は自由競争をモットーとするアメリカの資本主義精神と相反するという指摘もある()。

堰を見たところで、水路(Raceway)を川下の方へ順に下っていこうと思う。水路は今日では役目を終えて水は流れていないが、一部は公園として整備されていて、ほぼ全体をたどることが出来る。

イヴァンホー水車小屋 (Ivanhoe Wheelinghouse)

写真の赤い煉瓦作りの小屋は、クレーン製紙会社の水車小屋だった建物である。クレーン製紙会社はアメリカの中でも有力な製紙会社で、代々アメリカの紙幣は同社製の紙を利用している。

Essex Mill
コルトの工場があった場所は、廃墟になっている。
Phoenix Mill

ロウ・コステロ

工場街の外れにあるシアンチ公園 Cianci Parkに、バットを持ったひょうきんなおじさんの銅像が立っている。後で調べてみると、パターソン出身のコメディアン、ロウ・コステロ Lou Costelloの銅像だということがわかった。
コステロはアボット Abbotと漫才のコンビを組み、長身のアボットとずんぐりしたコステロの凸凹コンビとして人気を博した。彼らの持ちネタのひとつに、"Who's on First?"(ところで、ファーストは誰だい?)という野球ネタがあり、バットを持ったひょうきんな姿は一度はどこかで目にしているだろう。言われてみれば、そういう西洋漫才もあった気がする。
この銅像は言うまでもなく"Who's on First?"に題材を取り、1992年に建てられた。


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