チョコレートの町ハーシー Hershey, A Town on Chocolate, PA


上:ハーシーのキス・チョコ(アーモンド)。キス・チョコというと恋人どうしが「お口あ〜ん」をするようなイメージもある(参考画像)が、パッケージには"Have you HUGGED and KISSED your kids today?"「今日、子供とふれあってキスしましたか?」と書いてある。これまた、極めてアメリカの家庭的価値観に基づいた家庭団らんのアイテムとしてのチョコレートなのである。これの姉妹商品としてHugというのもあるらしい。
下:ハーシーの板チョコ(ミルクチョコレート)。撮影用に一番大きなのを買ってしまった(笑)

ペンシルヴァニア州に「チョコレートの町」を名乗っている町がある。州都ハリスブルグの東隣に位置するハーシー Hersheyである。人口13,000人の小さな町だが、このハーシーという町の名前はチョコレート会社のハーシーと同じで、つまりはハーシーの本社のある典型的な企業城下町なのである。
アメリカでチョコレートといえばハーシーとブランドが決まっている。単にシェアが大きいと言うだけでなく、ケロッグのコーンフレーク、ハインツのケチャップ、キャンベルの缶スープと並んで、ハーシーのチョコレートはアメリカの消費文化の象徴になっている。
そんなハーシーだから、いくつものエピソードがある。戦後日本に進駐軍がやって来たとき子供達がアメリカ兵に向かって「ギミー・チョコレート」と言ったが、そのチョコレートはハーシーのミルクチョコレートだったという。戦後日本はハーシーのチョコレートの甘さを原体験として、アメリカの豊かな消費生活に憧れ、そして追いついた。
スイス生まれで世界で一番食べられているというキットカットKit Katでさえも、アメリカで売られているパッケージをよく見てみるとハーシーの子会社が作っている。ハーシーを抜きにしてアメリカでチョコレートで商売するというのは難しいんだろうなと思う。あるいは、ハーシーが意地にかけてキットカットの生産ライセンスを獲得したのかもしれない。とにかく、そんな業界事情が見え隠れするくらい、チョコレートと言えばハーシーである。

そのハーシーのお膝元とあっては、「チョコレートの町」を名乗るのにも自負がある。
町には、ハーシーのチョコレートをテーマにしたテーマパーク(遊園地)=ハーシーパークや、アトラクションの一部かと思うようなエンターテイメントを追究した工場見学コース(ハーシーパークとは別施設で無料で見学できる)、チョコレート風呂やマッサージを楽しめるホテルなど観光客向けの施設が整っていている。チョコレート通りやカカオ通りがあり、街灯もキス・チョコの形をしている。こうなると単に工場のある企業城下町ではなく、町そのものがチョコレートのテーマパークになりきっている。


とはいえ、企業テーマパークもあちこちにできてありふれたものになっているし、町おこし・村おこしとして地域全体をひとつのテーマに沿って演出することも当たり前の観光戦略になっている今日この頃では、ハーシーも、企業と地域とが一体となった企業文化(企業がそのブランド力で作り上げた消費文化)テーマパークのひとつぐらいにしか考えていなかった。よく行くバーガーショップのトレイの敷き紙にハーシーパークの宣伝が載っているのを眺めても、ちょっと豪勢な遊園地程度の印象で、ローラーコースターに乗るためだけにペンシルヴァニアへ行く気にはなれないでいた。

ところが2002年7月に、ハーシー(企業・町両方とも)の周辺がにわかに騒がしくなった。ハーシーが身売りをするという報道があったのである。より正確には、チョコレート会社の全株式の31%、議決権付き株式の77%を所有し、伝統的に同社の経営に関与してきたミルトン・ハーシー・スクール・トラストがその保有株式を売却しようと言うのである。アメリカを代表するチョコレート会社だけあって、内外の食品会社が関心を示し、売却となれば100億ドルの取引になるとみられている。企業城下町のハーシーにとってはそれこそお家の一大事なわけだが、経済的な存在を越えて地域に動揺が広がっていると言う。[時事通信の配信記事:元記事はロイター電]
アメリカ調査旅行のTTSとしては、このあたりからおもしろくなってくる。そもそも、ハーシーの経営権を握るミルトン・ハーシー・スクール・トラストというのは、スクール(学校)と付いているが、その正体は何なのだろうか?企業と地域との関係に、いま流行の企業テーマパークで町おこしを超えた、歴史と伝統が潜んでいるような感じがする。


ハーシーの歴史

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