雪の妖精 Phoebe Snow:無煙炭でクリーンな鉄道旅

ラカワナ鉄道会社では、雪の妖精 Phoebe Snowのキャラクターを使った一言広告(ジングル jingle)を全部で70種類も作り、雑誌や新聞などで積極的に無煙炭のクリーンな鉄道旅を宣伝した。雪の妖精とは白いドレスを着た若い女性で、つまりラカワナ鉄道では煤煙の出ない無煙炭を使っているので、白いドレスを着ていても汚れる心配をしなくても良いというアッピールである。
白いドレスは、純潔、上品、清潔といった価値観の象徴でもあり、20世紀初めの頃に起きた科学的な手法による社会美化運動(公衆衛生観念の普及や労働者の生活水準の改善、都市景観の美化(つまり都市のスラム街が社会問題となっていた))を反映しているという見方も出来る。

広告手法という点からは、キャンペーン・ガールのはしりであり、しかも白いドレスというコスチュームが決まっているという今日のコスプレ・カルチャーに通じるものがある。当時はかなり斬新なキャンペーンだったことだろう。

復刻した絵葉書を見てみよう。

心地よいシートや豪華な食事も、リネンが白く銀食器が輝いていて初めて雪の妖精を満足させることができます。無煙炭の鉄道旅なら。


ストレートに無煙炭の長所を取り上げた広告である。シートのリネンが黒く汚れていたり、せっかくの豪華な食事でも食器にすすがついていてはどうしようもない。白さこそが、快適さであり、清潔さであり、行き届いたサービスなのである。無煙炭でご満足の雪の妖精である。

雪の妖精嬢は気付きました。彼女のふわふわでフリルのついたドレスのクリーニングの請求がたいしたものでないことを。そうです、無煙炭だったら白のガウンを着ていてもずっと輝いているのです。



旅行に出掛けて洋服のクリーニング代を気にするようなのは、中流階級の人々である。彼らは、無一文の移民のように着のみ着たまま新天地を求めて旅をするのではない。たまのお出掛けに、ちょっと着飾って、余所行きを着て列車に乗るのである。そのお洋服が煤で汚れてしまったらクリーニング代も馬鹿にならないなぁと、つい考えてしまう。ちょっと綺麗な洋服は持てても、その洗濯代を気にしなくてもいいほどにお金があるわけではないのが中流階級である。
洋服が汚れずに白いままであることは単に快適であるだけではない。クリーニング代を節約できるという実利的なことでもあるのだ。
この広告は、一般大衆が旅行を始めるようになったことを示していて、そうした庶民をターゲットにして無煙炭の鉄道旅行を売り込んでいることがわかる。

雪の妖精は言いました。「わかっていらっしゃると思うけれども(世の母親は当然わかってなければならないですけれども)子供達をクリーンで綺麗にしておくためは、無煙炭の鉄道でお出掛けを」
子供の健康や身なりを考える母心を突いた広告。カッコでくくった"As mothers should (know)"が脅迫的だ。雪の妖精の影のささやきだろうか(苦笑)。


すでにお気付きの方もいるかもしれないが、雪の妖精は労働者、とりわけ炭鉱労働者とは全く正反対のキャラクターとして描かれている。つまり、白いドレス:労働着、女性:男性、綺麗さ・清潔さ:煤汚れた格好、という対比である。どこかで雪の妖精と炭鉱労働者がいっしょに載っているジングルを見た覚えがあるのだが、元の資料にたどり着けないでいる。このジングルは是非紹介したいと思っている。


ホーボーケン鉄道フェスティバルで再現された「雪の妖精」嬢達


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