スタテン島フェリーと鉄道

ニューヨークの地下鉄は複雑怪奇。各線がそれぞれの路線色で塗られ、マンハッタンの各地でカラフルに絡み合っている様は、まさに地下鉄の路線として風格すら感じさせる。ところが そんなニューヨークの地下鉄の路線地図には、いつも気になる路線が付け加えられている。それはマンハッタン島とニューヨーク湾(アッパーベイ)を隔てたスタテン島に引かれた1本の路線。島を北東から南西に縦断するこの路線は、いかにも電車がとことこ走るようなのどかな感じを醸し出しているのだが、れっきとした都市交通局MTAの路線である。その証拠に、地下鉄用のメトロカードやトークンでこの島の鉄道に乗れるのである。
地図を見る程に、この落差が鉄道ファンとしてのイメージを刺激し、どんな鉄道なのか確かめに行きたくなった。これがスタテン島行きの発端である。

さてスタテン島に行くには、マンハッタンの南端からフェリーに乗っていくのが便利である。 スタテン島フェリー(Staten Island Ferry)は、ニューヨークのマンハッタンと直結しているだけあって通勤の足として役割を果たしている。運営はニューヨーク市の交通局。料金は人は無料(50¢と書いてあるガイドブックは古くなっている。ただし車両の航送は有料)となっている。

スタテン島フェリー

Staten Island Ferry Terminal at Manhattan
マンハッタン側のフェリーターミナル。自由の女神への観光船が出ているバッテリーパークの隣にある。地下鉄の1・9の終点サウスフェリー(South Ferry)を出ると真上がフェリーターミナルになっている。いくつかのバス路線の終点にもなっていて、海と陸の交通が連絡している。
Former and Present Ferry Terminals
マンハッタンのビル群の足元にフェリーターミナルがある。薄緑色の建物が2棟見えるが、現在使われている接岸設備は左側の角張った方である。右側に見えるアーチになっている接岸設備は、以前のものらしく、現在は使われていない。
Former Ferry Terminal
かつての接岸設備。アーチの丸みといい、柱の飾りといい、マンハッタンの玄関としての風格は現在の設備に勝るものがある。
Ferry Boat at Staten Island Terminal
スタテン島側のフェリーターミナルで見かけた僚船。この日は土曜日ということもあって、午前中は1時間おきの運行ダイヤになっている。片道25分の船旅であり、1隻の船が往復してダイヤをこなしていた。が、平日のラッシュアワーには20分おきに船が出るダイヤが組まれていて、その時にはこの船もフル出動するのであろう。
Getting off boat 1
スタテン島での下船時。勝手を知った人たちは一足先に船に乗り込む。
Getting Off Boat 2
このフェリーの特徴のひとつは、船先が円くなっているところである。しかも段差や柵が一切なく、車両甲板がそのまま切れているので、凹状に円くなっている接岸設備と密着させるだけで、短時間で車両の乗降が可能になる。こうした「知恵」からも、通勤用として活躍していることが伺える。写真の下側が接岸設備、黄色の線で縁取りがしてあるところから上側がフェリーの車両甲板である。
Depart
凹凸がかみ合って密着していたフェリーの甲板と接岸設備が離れる様は、まるで地面が割れるような迫力がある。航行中も車両甲板へ出入りは特に規制されておらず、甲板の先端で待ち構えていると、こういう風景も見ることができる。航行中は足元1メートル下で波が砕けるのを目の当たりにすることができて、これも気分がいい。
Boat for Statue of Liberty
このスタテン島フェリーは、ちょっとしたガイドブックなら、自由の女神が近 くに見られてなおかつ通勤用だからニューヨーカーの日常にも触れることができ るうんぬんと書いているものもあるらしい。今回は観光目的ではなかった(?)ので、自由の女神の写真は撮ってません。あしからず。
替わりに、途中、自由の女神への観光船を追い抜いたので写真を撮ってみました。かなり大きく撮れているように見えますが、トリミングの効果です。フェリーから自由の女神を撮影すると、普通の70mm望遠ぐらいのカメラでは、ちょっともの足りないくらいの大きさに写ります。1.5mくらいの人間がこんな感じにつぶれて写る程度でしょう。
あちらは観光船らしく、まだ冬の冷たい風が吹いているというのに、吹きざらしの甲板にもかかわらず人が多く出ている。

ミニ情報
以前有料だった頃は、スタテン島から乗船する際に50¢を支払うという仕組みになっていた(マンハッタンからの帰りはタダで乗れるから、スタテン島の住民にとっては往復で50¢という計算になる。通勤客の利用を専ら考えていた)。そのため、スタテン島のフェリーターミナルにはターンバーがずらりと並んでいるが、今ではコインを入れる必要もなく、勝手にまわして入れる。あちらこちらに自動販売機も並んでいるが、これらはMTAの地下鉄・スタテン島鉄道用のものでフェリーには関係ない。ターンバーの頭上にはNo Fare Required(料金不要)と大きく書いてある。

ミニ情報(04/15/2000追加)
スタテン島からマンハッタンへ帰るには、バスと地下鉄を使う方法もある。
フェリーターミナルからスタテン島鉄道でGrasmere駅まで行き、そこでバスS53・Bay Ridge行きに乗り換える。このバスは、スパン長さが世界で5位のベラザノ・ナロウズ橋を通り、ブルックリンのBay Ridge(86 St.)に至り、そこで地下鉄のRラインに接続している。ベラザノ・ナロウズ橋からは遠くマンハッタンのビル群や、ローアー・ベイの広がる海原を眺めることができる。スタテン島鉄道、S53バス、地下鉄RラインともにMTAの1日パスが利用でき、この3路線に乗るだけで既にパスの元は取ってしまえる。

ミニ情報(08/01/2001追加)
車でマンハッタンに出掛けるのは渋滞や駐車場の確保が大変で億劫だが、そういう場合にはスタテン島まで車で行ってフェリーでマンハッタンに渡るという方法がある。フェリーターミナルの駐車場が1日$5.5と、マンハッタンの3分の1から4分の1の値段だ。ただし夜は10時までしか開いていないので、遊んで帰るときには不便かもしれない。また、駐車場のパーキングチケットの発券機は、クオーター・コインしか受け付けない(ということはコインが22枚!必要。あるいは、通勤者向けのプリペイド・カードを買うしかない)ので旅行者には面倒かもしれない。
スタテン島へは、ロング・アイランドやJFK空港からはベラザノ・ナロウズ橋(東向き西向き両方向とも料金徴収。1回7ドル)、ニュージャージーからはアウター橋かGOETHALS橋(ニュージャージー→スタテン島向きのみ徴収。6ドル)を利用しなければならないが、マンハッタンの駐車場代を考えるとまだ安い。


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