青函トンネル吉岡海底駅見学

本坑

いよいよ本坑の見学である。

本坑は、列車を通すという青函トンネルの本分を担うトンネルである。作業坑や斜坑など他のトンネルはすべて、本坑の機能を 維持するためにある。
だが、奉られる存在であるだけに、裏話的には本坑はいまひとつ「面白み」に欠ける存在である。工事中のエピソードで、異常出水が あってあわや掘り進めてきたトンネルが水没してしまいそうになったときも、一番重要なのは排水ポンプであったり、トンネルを掘り進めて行く 上でのセンサーの役割を果たしている先進導坑であったりし、本坑は断面が大きく、ポンプが生きてさえいればいつでも排水が可能という 判断で、水を貯めておくバケツ代わりに使われた。
吉岡海底駅が本来の役目を発揮する緊急時(特に車両火災時)には、本坑には燃え盛る列車が横付けされているわけで、その際の 最重要課題は、いかにして乗客を本坑から作業坑、そして斜坑を通って地上へ避難させるかということになる。列車から乗客が退避してし まった後の本坑はいわば放棄されてもかまわない区画となり、作業坑や斜坑こそが避難路として絶対的に守らなければならない区画となる。 実際、防災設備の説明を聞いていると、作業坑や斜坑を守るような(特に火災時の煙から)工夫が随所になされていることがわかる。

では、列車を通すことを目的としている本坑の特徴を一言で言うと、すべてが新幹線仕様であるということである。それは、新幹線が 通ってこそ青函トンネルの真価がより発揮されるという将来への願望であり、現在、在来線が利用するには贅沢なくらいだという一種気位の 高さにもなっている。
このあたりの感覚を、渡辺さんは「何でも新幹線になってる」と表現していた。確かに本坑の説明で二言目には「新幹線」が出てくる。 「何でも新幹線になってる」点を、実際にひとつひとつ見ていってみよう。

新幹線仕様の第一は、トンネルの直径の大きさに現れている。新幹線は標準軌を採用しているため車体の大きさも在来線より一 回り大きい。在来線の特急では横一列通路を挟んで4人がけだが、新幹線では5人がけになっているのも、車体が大きいからである。さらに 新幹線同士が高速ですれ違うとき、互いに強い風圧を発生させるので、走行に影響がないように複線の間隔を広く取っておく必要もある。 その結果、本坑は幅9.7m、線路からの高さが7.65mもある。

実は吉岡海底駅のホームも新幹線用の規格で作られていて、そこに在来線用の小さな車体の列車が停まるとホームと車体の間に隙間が できてしまって、乗降の際に危険とのこと。見学者が乗降する2号車の停まる付近だけは、ホームが張り出す格好になっていて、在来線用に対応 している。

線路を支える路盤も、構造は東北新幹線や上越新幹線で採用されているものと同じになっている。路盤の幅も新幹線の標準軌(1,435mm) にあわせて作ってあるため、在来線のレールの幅(1,067mm)には広すぎて、片方に寄るようにレールが敷設されている。こうして見ると、レールも どことなく遠慮がちである。路盤には印がつけてあって、将来はそこに新幹線用のレールが加わるようになっている。

なお、現在でも青函トンネルのレールは、新幹線と同じ1m当たり60kgの重厚なレールを使っているとのことである。
トンネル内は気温がほぼ一定でレールの伸び縮みの影響がほとんどないため、レールを溶接して1本につなげたロングレールを採用して いる。
新幹線規格を準用した線路なので開業当初はまったく横揺れが発生しなかったが、さすがに十数年たった現在では横揺れが激しくなってき ていて、一部レールの取替え工事などもしたそうである。


本坑

青函トンネルのメイン・列車が通る本坑。新幹線規格で作られているところに、現在は在来線のレールが敷かれている 。専門用語で言うと「スーパー特急」状態である。

路盤とレール

新幹線仕様で作られている路盤と、そこに4分の1の幅を余らせて敷かれている狭軌のレール。路盤に空いている 穴は、列車火災時に床下の火を消化するスプリンクラーである。

列車通過

列車が通過していった。渡辺さんによると、今日は時速140kmぐらいで、まあまあのスピードとのこと。

列車のテールライト

列車が通りすぎると、トンネル内は闇に包まれる。

本坑から作業坑へ通じる連絡坑。手前側が本坑で、作業坑に向かって傾斜して下って行っているのがわかる。 これは、万が一列車火災が起きたときに一番怖いのは煙に巻き込まれて避難できなくなることだが、熱せられた煙は上昇する という性質を考え、作業坑側を低くしておくことで煙の進入を抑え避難路を確実に確保するための工夫であるという。
こうした構造的な工夫に加えて、列車火災時には作業坑側から本坑に向かって風速20mの風が吹き付けるようになっている。 避難するときは、台風並みの風に逆らって、風上の方向に、煙を避けながら進むことになる。
作業坑側が低くなっている

壁面に掘り込んである"30"や"30I"の意味についても説明があった。[こちら]


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