高速道路 Expressway

とりあえずは、自動車での「高速度移動」という観点に着目して"Expressway"という言葉を当てておく。

高速道路を厳密に英語に訳すというのも、案外難しい。国によって道路制度が異なっているというのもあるのだが、それ以上に高速道路という言葉が2つの意味を含んでいるからである。こう言うといぶかしがられるかもしれないが、実際日本の高速道路を見ても東名、中央、名神のように「‥‥高速」と呼ばれているものと、中国、北陸、東北のように「‥‥自動車道(道)」と呼ばれているものがある。
これは高速道路の思想史にかかわってくるのだが、前者は「高速度で移動できる」という移動の面に重点を置いたもの、後者は高速度で移動できる「全国規模の新しい幹線道路」(国土開発幹線道路)という面に重きを置いたものである。後者の議論では、幹線道路は全国の都市と都市とを結んで国土を一体化するものだから、高速度で移動できる規格でないと意味がないという話になって、全国的な道路網=高規格道路と当然のように考えている。ここから、日本では高速道路のことを、英語の本来の意味は「全国規模の都市間道路」である「ハイウェイ」と呼び慣わしたりしている。【参考:
街道 Highway
ヨーロッパでは、ドイツのアウトバーンを始め、従来の馬車交通に対する「自動車道路」という言い方をする。イギリスの"Motorway"、フランス語圏の"Autoroute"という具合である。

日本の高速道路は法律上「高速自動車国道」と規定されているが、「高速」「自動車」「全国的な道路網」という概念を全て盛り込んだ用語であることがわかる。ただ、これらの概念には三位一体のところがあって、普通はどれかひとつかふたつで高速道路を表現するというのも見てきたとおりである。

余談だが、新しい幹線という用語を以て高速度の交通体系を意味するのは、道路制度だけではない。鉄道の「新幹線」ももともとは「新しい幹線(鉄道)」という意味であって、高速度の文字はどこにもないが、在来の幹線鉄道があるところにさらに莫大な投資をしてもう1本鉄道を通すのだから、高速で大量輸送の出来る規格でないと実際上意味はないことは明らかである。新幹線の英訳も直訳の"New Trunk Line"や"Bullet Train"(弾丸鉄道)などいろいろあったが、結局は"Shinkansen"そのままで広く英語圏にも知られることになった。これは「在来鉄道に並行し、閉鎖的な体系を持ち、高速度で、大量輸送」というコンセプト全体が極めて独創的だったということを示している。
広義に高速鉄道を指す場合には"High Speed Train"と呼ばれる。これはもう速く走ればそれでいいという考え方だから、在来の路線をそのまま用いて1時間に1本という運行頻度のTGVなども含まれる。
"Shinkansen"的な言い方が"Highway"で、"High Speed Train"的な言い方が"Expressway"に相当する。

さて、英訳だが、「高速自動車国道」の意味を汲んで"Express Motorway"(高速自動車道)、"Express Highway"(高速国道)という言い方も出来るかもしれない。どちらかというと前者はイギリスっぽい表現だろうか。
アメリカの道路地図である"Rand McNally"の表現に従うと、"Toll Access-Limited Highway"となるだろう。
他に"Speedway"という言い方もあるらしいが、私の英語の感覚では「レース場」を指すので高速道路の意味では使わない。サーキット族がぐるぐる回る首都高都心環状線や、中央道の山梨県の直線区間を「レース場」にたとえて言う場合には、使うかもしれないが。

アメリカの高速道路については、"Freeway"と"Interstate Highway"というまた独自の道路制度と概念があるので、[日本語に訳しにくいアメリカの道路用語]のコーナーで個別に解説したい。


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