マサチューセッツ右往左往

6月11日(2日目)
その3
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ジョン万次郎のフェアヘヴンを後にして今日の宿と決めたメーン州のフリーポートを目指す。ボストンを環状になっているI-95で抜け、そのまま同じI-95で北上する予定だ。

閉め忘れたガスキャップ

ボストンの2重の環状線のうち内側にあたるI-95に入った途端に、車が流れなくなってしまった。どうしたのだろうか。まだ帰宅渋滞には早い時間である。片側4車線の道路が車で埋まっていてのろのろ進むと、やがて反対車線で事故があったことがわかった。それも車が黒焦げになっている。こちら車線の渋滞の原因はこの事故の見物渋滞だったらしく、その地点を過ぎると流れ出した。
燃料タンクに火が入ったのだなぁと思う。
‥‥
と、重大なことに気が付いた。燃料タンク。そうだ、午前中に給油したときにタンクの蓋をした記憶がない。閉め忘れている。いちおうシャッターが閉まるようにはなっているが、蓋がないままで大丈夫だろうか?今日は日差しも強くて暑かった。ガソリンが揮発して、走っているときに火花でも拾ったとしたら‥‥。先程見た黒焦げの車が炎上している場面が思い浮かばれる。「日本人旅行者、アメリカで炎上事故死。原因はガスタンクの蓋の閉め忘れ」という新聞記事まで想像できる。当人には重大な事態であるが、まぬけな理由である。
gascap
これがガスキャップ
(新しく買ったやつ)
こんなふうに無造作に置い
ておくと忘れるので要注意
(苦笑)
そう、ニュージャージーではセルフでの給油は認められておらず、自分でガソリンを給油するという経験はこれまでなかった。実は、今日入れたのが初めてである。ニュージャージーに住んでいるアメリカ人の知り合いは、外の州へ行っても店員が給油してくれるフル・サービスのガススタンドを選んで入っていたが、そういうことであったか。やっぱり慣れないことはするものではない。
まだ旅行の日程は残っている。このまま走っていても事態は解決しないので、近くの町に入って部品屋を探すことにする。天気はしだいに悪くなり、雨まで降り出した。最悪だ。

後で知ったのだが、インターステイツを出たのはボストン郊外のニュートン・ハイランズNewton Highlandsという町であったらしい。自動車部品屋を探すが、日本にあるような「黄色い帽子」が目印とか「自動車援護隊」を名乗るようなチェーン店はもとより見つからない。しばらく行くとAAAがあったので、そこに立ち寄って聞いてみることにした。
「ガスタンクのキャップをなくしてしまって、そういう自動車パーツを売っている店があれば教えてくれませんか?」と聞くが、相手は鳩が豆を喰らったような顔をしている。AAAと言えば、地図をもらいに行くところであり、せいぜい自動車保険も扱っているところである、ということぐらいはこちらでも分かってはいる。豆を喰らった係員が他の係員も巻き込んで鳩首会議をしているが、結論は「車のメーカーに問い合わせるのがいい。おたくの車のメーカーはこの町にはないが、ボストンは広いからどこかにあるだろう」ということだった。
仕方なく、中古屋、整備屋みたいなところも含めて探す。何件目かに立ち寄った整備屋で、部品を扱っている店を教えてもらう。助かった。ところが、こういう精神的に余裕のないときは、観察力とかコミュニケーション能力とかすべての能力が衰えるもので、目的の店がなかなか見あたらない。角を曲がり間違えたか、目印の銀行を見落としたか、そもそも聞き違えたか、なかなか見つからない。同行者CHGとのやりとりも険悪になってくる。
とにかく「銀行の横を曲がる」という言葉を手がかりにそれらしき銀行を見つけ、そばに、整備工場があった!これだ!と思ったが、そこは違っていて、銀行の脇の道を曲がったところに部品屋があると教えてもらった。ようやくパーツ屋にたどり着いた。

「ガスタンクのキャップa cap of gastankをなくしてしまって‥‥」「それはガスキャップa gascapのことかい?」

これだけのやりとりで、ガスキャップという単語がすらっと出てきた。彼らはプロフェッショナルだ。メーカー、年式を聞かれるが、レンタカーなので詳しく分からない。そこに停めてあるからと言って外に出て見てもらうと、一目ですべてを言い当てた。やはりプロフェッショナルであった。幸いに当該部品の在庫があった。はめてみるとぴったりと閉まった。そのときは$50払っても惜しくはない気分だったが、$7.65で済んだ。請求された分だけきっかり支払う。時に16:42。思い出深いその時の納品書は大切に保管してあるので、分単位まで記すことができる。

その自動車部品屋は、ボストン近郊のトラム(市内電車)のニュートン・ハイランズの古い駅舎を再利用しているらしかった。後ろが掘り割りになっていて、電車が走っている。ときどき、降りた客が掘り割りから階段を上って部品屋の脇から出てくる。雨はこころもち弱くなっていた。


I-95に戻るが、今度は帰宅ラッシュの時間帯にぶつかってしまった。片側4車線の道をのろのろと走る。このままI-95を行けば環状部が終わってそのままメーンに向かって北上するのだが、あきらめ、途中でI-93と出会った所で北上し、外側の環状線のI-495を経由して、再度I-95に戻ることにする。ここまで来たらI-95の環状部に8割方は付き合っていたことになるから、ルート変更でどれくらい時間の節約になったかわからない。とにかくI-93以降は流れる。
日が暮れだして雨も降る中、I-95をひたすら北上する。ときどき激しく雨が降る。
I-95をそのまま走るとニューハンプシャー・ターンパイクという有料道路になった。このあたりはニューハンプシャー州が少しだけ海岸線を持っていて、横切る格好になる。日露戦争終結の際のポーツマス条約に名前を採られているポーツマスはこのあたりかと、地図を思い出す。メーン州に入ると今度はメーン・ターンパイクという有料道路があり、またお金を取られた。
土地勘がないのでどこにモーテルがあるのかよく分からない。ハイウェイのExit毎にあるべき案内が見あたらない。下手に降りてみると3分もあればダウンタウンを通りすぎてしまうような、小さな町だった。とりあえず最終目的地のフリーポートまで行ってみることにした。
フリーポートは想像していた以上に買い物の町だった。Exitを出ると、全国的なチェーン店からローカルなものまで5、6軒のモーテルが固まっていた。買い物客がそれだけ来ると言うことだ。これだけあると逆に迷ってしまうが、今日はいろいろあって疲れてしまったので、寝るところは無難に、全国チェーンの宿に入る。夜の9時近くになっていた。

泊るところも決まったことだし、食事がまだなのでフリーポートのダウンタウンまで一度出てみる。小さな落ち着いた雰囲気の町だが、そこに立ち並んでいる1軒1軒がすべて有名ブランドのアウトレット・ショップなのである。だいたいは通り一本で買い物が済みそうだ。L.L.Beanのアウトレットがメイン・ストリートを曲がったところにあった。明日はここで買い物をするので、土地勘を養っておく。
だが、食事できそうなところはない。昼間は全米からの買い物客でにぎわうのだろうが、夜はメーンの田舎町の装いである。早々にシャッターを下ろしてしまうのだろう。このあたりのギャップがまた面白い。面白がってばかりいても仕方ないので、ハイウェイを30分飛ばして近くにある「大都市」ポートランドまで行くことにする。来た道を戻る格好になる。
ポートランドの町も夜も10時を過ぎてひっそりとしている。ようやく見つけたサブウェイで、サブをテイクアウト(いわゆる"to go")する。また30分かけて宿に戻り、ようやく落ち着ける。ロブスター・ロールだったか、シーフード・ミックスだったか、よく覚えていないが、普段住んでいるニュージャージーでは見かけないレシピを頼んだ。メーンに来た雰囲気を味わって、満足した。
明日は、買い物三昧、そしてロブスターを食べてやる。ドライブは一段落だ。

ニュー・ベッドフォードに立ち寄るのはやはりきつかった。後で計算すると旅行中でこの日の走行距離が一番長かった。ガスキャップの出来事もあり、同行者CHGも私も、心身共に疲れてしまった。
ふたりとも注意力散漫で、この後さらに、宿でe-mailをチェックしようとつないでいた私のノートパソコンの電源コードを、同行者CHGが足に引っかけ、本体をテーブルから落としてしまうと言うハプニングまで起きた。おかげで液晶の上半分がブラックアウトしてしまった。パソコンまで壊してしまって、悪いことは続くものである。今日は厄日だ。早く寝て明日に備えよう。明日はまた別の風が吹くだろう。
‥‥その後しばらくは画面の上半分がブラックアウトしたままであったが、下半分は正常に「絵」が出ているので、液晶そのものではなく画面の上半分の電気回路が接触不良になってしまったのだと考えた。他の箇所には異常はなく、ウインドウ・サイズを下半分に縮めてなんとか使えることがわかった。そうして不便ながら使っていたある日、偶然にも全画面が映った。回路の接触不良説にしたがって、液晶の脇をひねったり、ねじったりしていると、継続的に元に戻った。今ではほぼ安定して使えている。よく分からないが、使えているので結果オーライ。やはりあの日は厄日だったのだろう。


データ
09:30 ノーザンプトン発
11:30 ガソリン補給にストップ
New Bedford
16:42 ボストン郊外のニュートン・ハイランズで燃料タンクの蓋を購入(レシートの時間)
18:36 New Hampshire Turnpike, Hampton ($1.00)
18:44 Maine Turnpike, Plaza 1 ($1.50)
19:26 Maine Turnpike, Plaza 9 ($0.50): Portlandの枝線
20:00すぎ フリーポート着
走行距離380マイル

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By CHG & TTS