北西ニュージャージーのラカワンナ鉄道・短絡新線跡

ラカワンナ鉄道は、ペンシルヴァニア州スクラントン周辺で採れる良質の無煙炭とその石炭を利用して製造した鉄をニューヨーク市へ運ぶために建設された鉄道で、煙の出ないその無煙炭を利用して自ら旅客列車を走らせた。ラカワンナ鉄道はフォービー・スノー(雪の精)と名付けた純白のドレスの女性をキャラクターにして、煤煙に苦しめられることのない快適な汽車旅をアピールした。

ニュージャージー州は全般的に平らな州ながら、北西部には1000メートル前後の山脈があり、ペンシルヴァニア州との州境にはデラウェア川が流れて地溝帯を形成しデラウェア・ギャップと呼ばれている。ラカワンナ鉄道はこの山脈を越えて鉄道を敷設していたが、勾配緩和と路線距離の短縮を目指して1908年から1911年にかけて28マイルに及ぶ新線(短絡線 "cutoff")を完成させた。地形を克服するために、低地には土盛りして突堤を築き、山を切り通し、深く切れ込んだクリークには大規模なアーチ橋を架けた。1400万立方フィートの土砂を切り崩し、それに匹敵する1500万立方フィートの土砂を土盛りした。当時の金額で1100万ドルの費用を要したと言われている。社運をかけた一大事業で、この新線が出来た時期はちょうどラカワンナ鉄道の最盛期にあたっていた。

けれども、エネルギー源が石炭から石油に移るにつれてラカワンナ鉄道も衰退の途をたどった。1960年にエリー鉄道と合併すると路線の再編成が行なわれ、ポート・モリス(Port Morris: ネットコング Netcongの近く)での操車作業を取りやめてしまい新線を含む旧ラカワンナ線の機能が大幅に低下してしまった。その後、エリー・ラカワンナ鉄道も破綻し他の鉄道会社と合併してコンレイル Conrail ができると、再度路線の再編成が行なわれ、ニューヨーク圏とスクラントンとの経路として旧Lehigh Valley Railroadの路線を用いることにして、1979年、旧ラカワンナ線は廃止されてしまった。

今回訪れたのは、この旧ラカワンナ鉄道の「新線」の廃線跡であった。

ポウリンズキル高架橋

Paulinskill Viaduct

旧ラカワンナ鉄道「新線」の廃線跡は、大規模な土木構造がそこかしこに見られて「贅沢さ」が忍ばれるが、その中でも白眉がポウリンズキル高架橋 Paulinskill Viaductである。
ニュージャージー州とペンシルヴァニア州との州境地帯は、台地がデラウェア川によって深く切り刻まれて地溝帯となっている。デラウェア川の支流のポウリンズ・キル(キルは小川・渓谷の意味)も蛇行しながら台地を刻んで流れていて、旧線はこの川沿いに谷底を這うように敷設されていた。新線はそうした地形を一切無視して台地上を一直線に通そうとして、ポウリンズ・キルを跨いで橋を架けた。ここには7連のコンクリート・アーチ橋が残されている。

I-81をコロンビア(Exit 4)で降りて、2車線の州道94号を東へ走ると程なく突堤の下をくぐり、雰囲気が盛り上がってくる。その後間もなく道が下りながらカーブして、ハイネスブルグの集落の入り口に"Hidden Drive"の注意標識が立っている。地図によるとまさにこの「隠れた道」がアプローチになる。ポウリンズ・キルを1車線しかない細い橋で渡りしばらく行くと、木々の間にコンクリートのアーチが見えてくる。


谷底から橋脚を見上げた後は、路盤上に登れそうな所を探しながら進むことにする。「新線」跡は真っ直ぐに走っているが、道路の方は谷底から回り込むようにして丘の上に登っていく。丘の上の比較的平らなところに出て、再び廃線跡と遭遇する。「新線」は相変わらず地形を無視し、堂々たる突堤を築いている。
とりあえずこのあたりから路盤上に登れそうだ。人が踏み分けたような跡をたどって突堤の上に登ってみる。

台地が落ち込んでいるのが見える。デラウェア川が台地を刻み、デラウェア・ギャップ(地溝帯)と呼ばれている。



[ニコルソン・アーチと北東ペンシルヴァニアの構造物]

[アメリカ東部の鉄道目次へ戻る]

(C) TTS 1997-2002, All rights reserved