| |
プロファイル湖から見たフランコニア・ノッチ。
きれいなU字形をしている。ノッチとはU字谷のことを指す。 |
ホワイト・マウンテンズのもうひとつの見所、フランコニア・ノッチ州立公園へは、ブレトン・ウッズからUS-302を西に進み、US-3を経て、I-93南に進む。
ホワイト・マウンテンズには何本かの谷が南北に走っている。東から、ピンカム・ノッチPinkham Notch、クラウフォード・ノッチCrawford Notch、フランコニア・ノッチFranconia Notchである。ノッチNotchとは、もともと刻み目の意味だが、この地方の方言で氷河に削られたU字谷のことを指す。道もその谷筋を走っている。先程からのルートをたどると、Gorhemからワシントン山オートロードに立ち寄ってピンカム・ノッチに沿って南に進み、ワシントン山のある連なりを迂回して今度は西隣のクラウフォード・ノッチに入り、そこを北上してブレトン・ウッズに達した(ブレトン・ウッズは、ワシントン山オートロードの入り口とはちょうどワシントン山の反対側にあたる)。今度は、もうひとつ山塊を西に迂回し、フランコニア・ノッチを南下する。ホワイト・マウンテンズの中を、谷から谷へSの字を描いて行ったり来たりする格好になる。
フランコニア・ノッチ谷自体が州立公園に指定されて、多くの自然が残され、レクリエーションの場として整備されている。 フランコニア・ノッチに入るとI-93のExit毎に見所の案内が出てくる。本当はフリーウェイの各駅停車をしてひとつずつ見ていけばいいのだが、「快速電車」ぐらいの停車にとどめておく。南へ行くと最初に出てくるエコー湖とキャノン山アエリアル・トラムウェイ(ロープーウェイ)は通過し、次のプロファイル湖Profile LakeのExitで一度フリーウェイを出る。
キオスクと簡単な展示室とトイレのあるビジターセンターから、湖までは300ft.の散策路を歩く。階段になっている下り道を降りていく。最初はもっと粗雑なトレイルを想像していたが、舗装されていて都市の中の公園を散歩しているのと変わらない。身体障害者用の駐車場は坂の下に別に設けられていて、そこからだと最初の階段を下りることなく、車から湖まで平坦な道を車椅子で行くことが出来る。このあたりは配慮が徹底している。
ここまで整備に力を入れているのは、単に湖があるからではなく、ここがニューハンプシャー州のシンボル「山の老人 Old Man of the Mountain」を見上げるビュー・スポットになっているからだ。岩の形が老人の横顔のように見える。プロファイル湖の名前の「プロファイル=横顔」とは、このじいさんの横顔のことを指す。
この手の望遠する名所の常で、普通のコンパクトカメラでは撮っても小さくなってしまい、その場で見上げて「あ、本当にじいさんの顔に見える!」と大喜びの様子は伝わらない。実際に現地に行って、「写真とおんなじだ!」と口にしながら見てもらいたい。州道を示す 道路標識や、州ごとのシンボルをあしらった 記念コインの図案にも取り入れられているので、「あ、ここにも、さっき見たじいさんの横顔が使われている」と喜ぶのもいいし、逆に「コインの図柄は何だろうと思ったが、実はこれのことだったか!」というのを本物を見てはしゃぐのもいい。
筆者は文学のことについては疎いのでよくわからないが、アメリカ東部の有名な詩人や作家が作品にも材を取っているらしいので、そういうのを知っている人にはもっと愉しいだろう。
要するに、一見に如かずの名所だ(それ以上は、何もない名所でもあるが)。
ノッチが氷河が削ったU字谷ということは述べたが、氷河は岩盤を削る際にこういういたずらを多く残すようで、「山の老人」と向かい側の崖には、「荒鷲」のように見える岩もある。合衆国のシンボルの荒鷲も、ここでは地元ニューハンプシャー州のシンボルのじいさんには敵わず、こちらは見上げる人も少ないように思われた。
【追補】ここで紹介している"Old Man of the Mountain"は、2003年5月3日に崩壊してしまって原形を残していないとのこと。州のシンボルであったことから、現在、麓に記念館を作る計画が動いているようです。
氷河湖であるプロファイル湖は、とても澄んでいた。足を浸してみると水が切れるように冷たかった。長く水に入っていると次第に感覚がなくなってくるくらいだ。散策路を戻ってビジターセンターのお手洗いの水も、山の水をそのまま使っているらしく、冷たかった。
わずかばかりだが歩いて、日差しも強いので、売店で売っているアイスクリームがおいしそうだ。皆考えることは同じでベンチに座って食べている人もいる。他人が食べているのを見ると、余計に食べたくなる。売店で1すくい scoop と2すくいのがあったので、同行者CHGと2人で食べるので、2すくいのを頼む。ところが、売り子のおばさんはやおらスプーンを取り出すと、1すくい、2すくい、3すくい、4すくい‥‥。おいおい、止まらない。結局6すくいして出してくれた。書いてある1scoop当たり実際には3回スプーンを動かすというのが、この店の流儀らしい。
家の近所のアイスクリーム屋では、SmallとRegularの2サイズがあり、それぞれ、"Small=2scoop, Regular=4scoops"と書いてある。この店のscoopは本当にスプーンですくう回数を指している。
そばで、子供にアイスクリームをねだられている母親が、私の持てあましているアイスクリームを見て"Huge ice cream!"と驚いていた。ところが、この巨大アイスクリームがとてもおいしい。「手作り」と看板に書いてあったが、それはどうも嘘ではないらしい。甘くもなく、変な香料の匂いもしない。瞬く間に食べ終えてしまったが、それでいて、あとから口の中がべとつくこともなかった。
次に立ち寄るのは、フリュームFlume渓谷である。幅は3m程、高さ20m程の断崖の谷間がある。谷というよりは溝に近い。flumeという単語の語感には「用水路」という意味もあるらしいから、このような細みを言い得ているのだろう。
日本でも、側溝や暗渠に用いる台形やU字形のコンクリート枠のことを「フリューム」と言うらしい。業界用語みたいだが。
このフリューム渓谷がフランコニア・ノッチ州立公園の中心観光地で、ビジターセンターも立派である。そして、フリュームを見に行くには入場料を払わなければならなかった。大人1人7ドル。本来は途中までバスが出ているが今日は休み(まだ本当のオン・シーズンではないから?)で、2キロほど歩かなければならない。
森の中の小径を歩いていくと、舗装された道が現われ、その先の川にカバード・ブリッジがかかっている。この道をバスが通るようで、カバード・ブリッジは歩行者通行禁止になっていて、脇の歩行者用の橋を渡る。山小屋風の建物があり、休憩所と、ちょっとした展示がしてある。売店もあるようだが今日は開いていない。バスはこの休憩所が終点で、そこから先はいずれにしても歩くことになる。
沢伝いに遡っていく。途中で、1枚岩の岩盤の上を一面に広がって水が流れている場所があった。遊園地のプールにある大滑り台のような雰囲気だが、立入禁止になっている。そこを過ぎると、谷筋もいよいよ狭くなった。
急に、冷気が吹き出ている地点にたどり着いた。天然のクーラーだ。ここで少し休むと、それまでの汗が引いて気持ちが良い。Ц字形のフリュームはこのすぐ目の前で、どうやら溝で冷やされた空気が吹き出ているらしい。
いよいよ断崖の地点にたどり着いた。川の水も、よくもここだけ器用に削ったものだ。発見当時は上に岩が乗っかっていてトンネル状になっていたらしいが、今では崩れ落ちてしまって、溝だけになっている。その溝の底に渡された歩道を歩いて、断崖を見上げる。
同じ道を引き返してもいいが、道は周回できるようにもなっていて、道順に沿ってPoolを見に行く。プールというのは、ため池か、日本の感覚で言うと水芭蕉が生えているような池でもあるのかと思っていたが、実際には、30mほど落ち込んだ渓谷が底で広がって池のようになっていた。水の色がきれいな緑色をしている。そこから、白色になって渓流が流れ落ちていっている。この谷にまた別のカーバード・ブリッジが架かっている。こちらは山道にあって歩行者専用である。橋から下を見下ろすと、目がくらみそうだ。
時々、先行するアメリカ人カップルに追いついたり、道端に立ち寄って距離を離したりしながら、1時間半ほどで元のビジター・センターに戻って来た。ここにも、使ったパンフレットが不要な人は返却するボックスが置かれていた。
森林の中を歩き回るのは愉しかった。
フランコニア・ノッチ州立公園で森林浴を楽しみこれで今日の予定は終わりである。
このままどこか近くで宿を探すか、明日ニュージャージーに帰ることを考えて少し南に戻っても良いのだが、あえてヴァモント州まで行くことにする。実は最初は、ニューハンプシャーの山岳森林地帯を楽しんだ後に、国境を越えてカナダのケベックを訪れ、トロントを経て、ナイアガラの滝を見物してアメリカに戻ってこようと計画していた。それだと、この後ヴァモント州へ行くのはむしろ自然なコースである。今となってはカナダへ行く時間はなく、明日は踵を返して南に戻らなければならない身なのだが、前に練っていた計画がまだ頭の中に残っている。早く言えば、ヴァモントへ向かう以外にアイディアが思いつかないのである。
それに、冬にヴァモント州にスキーに来た友人がべた褒めしていたこともある。冬と夏では印象は全然違うだろうが、ここまで来たら行ってみるのも悪くはない。
地図で大きな町をさがし出し、ヴァモント州のバーリントンBurlingtonを目指すことにする。今日はたくさん歩いて運動したし、旅行の最後の夜ということもあるし、ちゃんとしたレストランで食事をしたいということで、同行者CHGと意見が一致したのだ。思えば、昨日はケンタッキー(昼はロブスターにむしゃぶりついたが)、おとついはサブウェイだった‥‥。
I-93を少し北に走るともうヴァモントとの州境である。ニューハンプシャー州を出る前に一度リカー・ショップをのぞいてみたくて注意していたのだが、案内も出てないままに来てしまった。
ここで言うリカー・ショップというのは、州が経営する酒の販売店のことである。ニューハンプシャー州では消費税がない。つまり酒も無税で安く買えるのである。州が経営する以外に酒の販売店があるのかどうかは知らない(もしかしたら専売かもしれない)が、とにかく州があちこちにリカー・ショップを経営していて、そういうのは州の外から買い出しにやってくる人を相手にしてハイウェイの州境近くにあるというふうに聞いていた。無税なうちにアルコールを仕入れておきたくて、だから州境付近を注意していたのだが、結局見つけることが出来なかった。
ヴァモント州に入って最初のExitでI-93を降り、US-2で州都(と後から知った)モントペリエMontpelierを目指す。ニューハンプシャー州は北部を中心に訪れていたので森林山岳地帯だったが、ヴァモント州にはいると牧草地が広がるようになる。のどかな風景である。起伏もほとんどない。この区間のUS-2はこれまでの道路と比べて交通量が多い(車が連なって走る!ということはなかった)が、片側1車線で、車列は50〜60mileで流れているので何も考えなくても前の車を追って行きさえすればよい。歩き疲れたのもある。日差しも夕刻になり柔らかくなってきている。次第に眠気を催すようになり、途中、道端の木陰をみつけて昼寝をとった。車の窓を開けると風がそよいで気持ちよかった。
モントペリエは川沿いの小さな町だった。ここからI-89に乗る。またフリーウェイである。
バーリントンでI-89を降りてダウンタウンの方へ向かうと、大学の中に入ってしまった。
勉強不足なのだが、バーリントンはヴァモント大学のある大学町である。大学があることによって、落ち着いた文化度の高い雰囲気と、若者の活力ある雰囲気とをバーリントンは兼ね備えているのだという。学生は飲んで騒いでうるさいものと決めつけてしまうと両者は矛盾しているようにも思えるが、私は東京の国立市に住んでいたので、なるほど、そういう町の雰囲気というのはよく分かる。お洒落な雰囲気のレストランもありそうで、期待できる。
ヴァモント大学の前を通り過ぎてさらに進むと、道は大学のある高台から坂を下って、正面に水面をきらきらさせているシャンプレーン湖へと続いている。こういう景色はサンフランシスコとか、シアトルに似ていると思う。両方とも行ったことがないがイメージとしては間違っていまい。
湖畔の大学町とは、バーリントンはなかなか魅力的な町のようだ。実際、アメリカの中で住み良い町コンテストで常に上位にランキングされるという。そしてLonely Planet"には、「バーリントンは、ヴァモントで遊びに行こうと思ったら人々が向かう唯一の都市である」とも書いてある。この町を選んだのは正解だった。
車で町を一周して雰囲気を掴み、路地のパーキング・メーターに駐車する。めいいっぱいクオーター・コインを入れて2時間かけて食事を楽しむことにする。
メインストリートのチャーチ・ストリートは、煉瓦が敷き詰められ、歩行者天国になっている。レストランが思い思いに通りにテーブルを出している。アメリカではあまり見かけない景観で、まるでヨーロッパのプラッツ(広場)のようだ。この施策は、車で郊外のモールに出掛けてしまうアメリカ人の一般的な購買行動に対して、町の中心街ににぎわいと活気をもたらしたものとして評価されている。バーリントンが全米一住みやすいというのも、こうした人々が集う町の雰囲気をうまく演出できているところに一因があるようだ。これなら、確かにぶらっと歩いてみたくなる。
さて夕食。しばらく歩いてみて、ガラス張りの明るく「おシャレ」な感じのレストランに入ってみる。1階はデリみたいな感じで、2階の席に案内される。奥の方には、ガラス張りで厨房が見える。やけにコックの数が多いと思ったら、調理学校が出しているレストランだった。そう言えば、国立にも調理学校があったっけ。私はステーキを、同行者CHGはパスタを頼む。スープに、ニューイングランドということで(もう海のない州に来てしまったが)、クラムチャウダーを追加する。料理学校のレストランと言うこともあって、前衛的な料理に挑戦しているらしく、ステーキの付け合わせのポテトは細く糸状にしたものを揚げたもので、それが肉の上に載せて出てきた。フレンチフライトか、マッシュポテトがどばっと付けてあるのは許さないらしい。それは良かった。だが、同行者CHGの頼んだパスタは、エンゼル・ヘアの一番細いやつがのびるくらいに茹でられていて、「調理学校がこれじゃ、アメリカのパスタは終りね」と評していた。実際、アメリカのパスタは終わっている。クラムチャウダーは、私は一番最初にニュー・ベッドフォードのカフェテリアで食べた方が素朴でおいしかったと思ったが、同行者CHGはこのレストランのも味が複雑でおいしいと評していた。
食事をした後は、宿探しである。バーリントンの町も小綺麗で気に入ったが今晩はこの先のシャンプレーン湖の中にある島で泊りたいと思う。グランド島Grand Isle.(日本語だとさしずめ大島だが)という。
この島に目がいったのは、事前に地図ソフトでルートを考えていたときのことだ。先にも書いたように当初はカナダへ向かう予定だった。その地図ソフトは国境越えのルートとして、ヴァモント州を南北に貫きカナダ国境に至るI-89よりも、ニューヨーク州側のI-87を選択したがり、それで、シャンプレーン湖の中の島まで行き(ヴァモント側は橋でつながっている)、島からフェリーで対岸のニューヨーク州側に渡るというルートを出してきた。どうやら、カナダ国内に入ってから、I-87の方はそのままフリーウェイになるのに対して、I-89の接続している道は普通の田舎道になるというのが理由らしい。
そういう以前の計画の名残のようなグランド島だが、どうしてなかなか魅力的に思えてきた。海ではなく、湖の中の島というのが良い。そこでこの地域の観光マップを見ると、おあつらえ向きに湖畔の宿が載っている。その名も、Shore Acres Inn & Resortという。他にもいくつかインやモーテルがあるが、湖畔Shoreとついているところに惹かれる。地図を見ると島の東岸にあるのも良い。明日の朝、湖の向こうに朝日を見ることができるだろう。目標が決まったところで、あとひと走りである。
グランド島に渡る橋(実際には土手を作ってあって、一部だけ船の航行用に開閉式の橋になっている)の途中で、車が何台も停まっている。ちょうど夕日の沈む時間だ。我々も夕日を見るために停車し、降りようとしたところで、はっと気がついた。外にはすさまじいばかりの蚊柱が立っている。そう言えば、他の人たちも車の中にいて、外に出ているのは誰もいない。危うく蚊の餌食になるところだった。
太陽はこれから向かうグランド島の向こうに早々に沈んでしまったが、水面の色が茜色から徐々に暗闇になっていく変化が楽しめた。
この駐車スペースは、ちょうど警察のたまり場(ここを拠点に同じ区間を行ったり来たりして取り締まる)になっているようで、パトロール・カーもやってきた。速度に注意して行こう。
グランド島は平らな島である。牧草地がゆったりと広がっている。島ということを忘れさせるくらいの広がりである。
目的の宿はグランド島の中心であるサウス・ヘロSouth Heroにはなく、橋をひとつ渡ったノース・ヘロNorth Heroにある。島にいくつかある宿はサウス・ヘロの方に固まっていて、この先に行くと選択肢が狭まる。断られたらまた戻ってこなければならないが、とりあえず先に進む。
道沿いに宿の看板を見つけた。名前にリゾートと付いているだけあって、プライベートのゴルフ場やテニスコートがある。敷地内のゴルフ場の中を100mほど行くと建物がある。ちょうど食事時が終わった頃でまったりとした雰囲気だったが、幸いなことに部屋が空いていた。
部屋の窓から湖面が見える。 |