路面電車の走る町
ハドソン・バーゲン・ライトレイル
ニュージャージー州のハドソン川沿いの、ホーボーケン、ジャージー・シティ、ベイヨンといった地域を結んでライトレイルが走っている。ニュージャージー州内の地域鉄道をになっているニュージャージー・トランジット(公社)のハドソン・バーゲン・ライトレイル線(Hudson-Bergen Light Rail)で、2000年4月15日にニューポートを折り返し地点にして暫定開業し、2002年9月29日にホーボーケン・ターミナル延伸開業を果たした。
ニュージャージー州内の近郊鉄道、マンハッタンへ通じるPATH鉄道やフェリー、地域のバスターミナルのあるホーボーケンまで開業したことによって、他の公共交通機関との乗り継ぎの便が大幅に改善された。将来的にはホーボーケン以北にも延伸する計画があるが、ホーボーケンをターミナルとして折り返し運転(スイッチバック)する格好になりそうである。
ライトレイルは、日本語では軽便鉄道と訳されることもあるが、それでは山渓をトコトコと走るトロッコを想像してしまう。そうではなくて市内電車のことを意味し、郊外と都市とを結ぶ通勤用の路線とは違い、都市内での移動を担う鉄道である。マス・トランジットを賄うには少なすぎる需要をカバーするという意味での軽易。すでに建物が建て込んでいる都市内で少ない利用可能空間をうまく活用するための軽少。そういった意味でのライトである。
アメリカでは、往年の路面電車(street car)が、都市の再開発・活性化策の中で「小回りの効く」公共交通機関として見直されている。
今回開通したハドソン・バーゲン地区について説明しておく。
地図を眺めると、ニューヨーク市のマンハッタン島が南北に細長く伸びているが、ハドソン川を挟んでニュージャージー川に、まるでこの島に向かい合うかのように細長い半島状の陸地が伸びている。北から順にホーボーケン、ジャージー・シティ、バイヨンといった都市が並んでいる。大消費地マンハッタンの隣ということと、ハドソン川からニューヨーク湾にかけての水域に面していて水運の便に恵まれていることから、アメリカの歴史とともに工業、流通倉庫業が発達した。内陸部からの鉄道は、ニュージャージー側に広大な敷地を確保して貨物を捌くためのヤードを設けた。鉄道と水運との接点として、埠頭やドツクが作られ、地図をよく見ると鋸の歯のように出入りする人工的な地形が連なっているのがわかる。
ところが鉄道交通が衰退するにつれて、この地域が果たすニューヨークの物流センターとしての役割も失われていった。と同時に、生産の海外移転に伴って、工業生産も衰退してしまった。
基幹産業を失ってしまうと、とたんに、この半島は三方を水面に遮られた交通の便の悪い地域として取り残されてしまった。廃工場や使われなくなったヤードが残り、人気が次第に遠ざかる。ニューヨーク市を追い立てられた貧困層がこの地域に流れ着き、吹き溜まったりする。川向こうには繁栄を謳歌する摩天楼が広がるのに、そこに出るのもままならない。町全体の気分が鬱積する。自ずから治安が悪くなる。
実際この地域はマンハッタンの都心に川ひとつ挟んで面していて、交通手段さえあればかなりの高級(高家賃)な住宅地としてやっていける。例えば、自動車トンネルや地下鉄(PATH)が通じているホーボーケンには、「島」を逃れてきた日本人駐在員も多く住んでいるという。ホーボーケンのニュージャージー・トランジットのターミナルには州の各地から列車が到着し、ニューヨークへの通勤の乗換駅になってもいる。
そこで、地域の活性化のために、まず公共交通を整備してマンハッタンへの通勤を可能にして、同時にマンハッタンと一体化させることで都市機能を分散させてニュージャージー側を副都心として整備することが企てられた。
ライトレイルはこうした政策目標を達成するのに、適切な規模の交通技術を提供するのである。
公共交通手段を提供することで、人の流れを活発にし、澱んでいた地域に風穴を空けることができるだろうか。ハドソン・バーゲン ライトレイルのプロジェクトは、市内電車の建設だけでなく、地域の再開発・活性化と組み合わされたひとつの社会実験であると言える。
路線
ホーボーケンを北のターミナルとして、ウエスト・サイド・アベニュー線とベイヨン線の2路線ある。
ホーボーケンは、かつてのラカワナ鉄道のターミナルで、現在ではニューヨーク近郊鉄道のニュージャージー・トランジットのターミナルとなっている。またニューヨーク・ニュージャージー港湾局の運営するPATH鉄道も、ホーボーケンからマンハッタンへと通じている。ハドソン川を渡ってマンハッタン各地とを結ぶフェリー乗り場もホーボーケン駅に隣接してある。地域のバスターミナルもある。以前はニューポートまでの暫定開業だったが、ホーボーケンまで延伸開業したことによって他の公共交通との接続の便が一気に高まった。
ホーボーケン以北への延伸計画もあるが、線形はホーボーケンで折り返す(スイッチバックする)形になっていてホーボーケンをターミナルとして路線を編成していくようである。
取材:2000年3月・11月、2001年、2002年2月
2002年9月29日ホーボーケン・ターミナル延伸開業
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