道路元標こぼれ話その3登山道と元標登山道にも元標がある。登山口に置かれて、登山道の途中に建てる里程標の基準となる標石である。登山道の場合、山の危険と隣り合わせと言うことを考えると、里程標は普通の街道以上に重要なものであるかもしれない。富士山、浅間山、筑波山の登山口で見つかっている。
いずれの山も古くから名山として知られ信仰されてきたが、現在残っている元標の設置は以外と新しく、大正から昭和のはじめにかけてである。特に筑波山のものは栃木県が建てて「道路元標」と記している。大正道路法の道路元標制度の影響がもしかしたらあるのかもしれない。 新設される道路元標、創作される道路元標、復元される道路元標道路元標の多くが実際に大正11年8月18日内務省令第20号「道路元標二関スル件」の様式に基づいて立てられていて、そこから年を数えると2002年というのは80年目に当たる。この間風雪に耐え、道路の拡張工事や町の移り変わりにもかかわらず残っている道路元標ももちろん多くあるが、一方で損壊破棄されてしまった道路元標も多い。なかには道路の拡幅で埋もれてしまったものが、後に改修時に見つかって公園や公民館に「安置」されるという地蔵様のような道路元標もある。
まず「新設」であるが、これは大正道路法施行令にはなかった道路元標を新しく設置する例である。有名な日本国道路元標も、大正道路法施行令では「東京市ニ於ケル道路元標ノ位置ハ日本橋ノ中央トス」とあって東京市道路元標はあっても日本国という大仰な道路元標はないので「新設」扱いである。同様に、「道路元標ハ各市町村ニ一箇ヲ置ク」「市町村ニ於ケル道路元標ノ位置ハ前項ニ規定スルモノヲ除クノ外府県知事之ヲ定ム」という規定に基づいて、道路元標は市町村単位であるという立場を作者は取っているので、県の道路元標を名乗る宇都宮市にある「栃木県道路元標」というのも亜種扱いしている。
このサイトをいろいろご覧頂いた方はお気づきかと思うが、作者は道路元標についてできるだけ厳密に定義しようとしている。これには自分としては理由があって、市町村単位に統一した(たとえ大正時代の国道の中心であった日本橋でさえも東京市の道路元標にすぎなかった)というのが大正時代の道路元標の最大の特徴だと思っているからだ。とりわけ、それ以前の制度としての明治時代の「里程元標・里程標」と比較において、このことは大きな違いである。
かような理由で、市町村の道路元標を重んじるのであるが、「日本国道路元標」とか「栃木県道路元標」とかいった道路の中心地を決めたくなる気持ちはよくわかる。道路元標についての行政制度の説明よりも、「日本国道路元標は日本の道路の中心」という言い方の方が一般受けすることも理解しているし、すでに根拠法令があやふやになってしまっている今日では道路元標の新しいあり方があってもいいように思える。ただせめて大正道路法の体系とは区別して扱いたいというのが筆者の立場であり、そこでこうした大正道路法施行令からはみ出る道路元標を新設された道路元標と呼ぶことにしている。 新設される道路元標、創作される道路元標、復元される道路元標(続き)前回、市町村以外の「日本国道路元標」や「栃木県道路元標」を新設として扱うとした説明で、大正道路法の体系を基準に考えているということを述べた。大正道路法の体系に忠実という意味では、その形にもこだわりがある。つまり大正11年8月18日内務省令第20号「道路元標二関スル件」を法的な根拠として、高さ60センチメートル、縦横25センチメートルの石柱で、上部5センチメートルまで角を取るというおなじみの様式を道路元標本来の形とするのが作者の立場である(もっとも東京市道路元標のような例外も認められていたが)。
担当者が前例に忠実なよき役人だった場合には、高さ60センチメートル、縦横25センチメートルの石柱で、上部5センチメートルまで角を取る昔の様式のものを「復元」するようである。ただ、そこは文化財の復元とは違って、御影石を使って表面を磨いてみたり(浦和町道路元標)、コンクリートで復元したり(長野市道路元標)する。その形状といい耐久財を用いている点といい、大正11年8月18日内務省令第20号「道路元標二関スル件」の規定が戦後も遵守されているわけで、ある意味では「生きている」道路元標である。 「新設」「創作」「復元」と分類してみたが、そのどれが良いかを比較しようと言うのではない。いつの間にかなくなってしまっていた道路元標も少なくない一方で、道路元標というものがあったということを覚えていて、ないなら何とかしなくてはならないという行政側の姿勢があるだけでも良しとしなければならない。広く道路元標について関心を呼び起こすことが、昔のものがそのまま残されている道路元標の保存にもつながっていくのではないかという淡い期待を持っている。
[道路元標とは何か?][道路元標の楽しみ方][道路元標の楽しみ方]
お問い合わせ(メール):TTS (C) TTS 1997-2002, All rights reserved |